続き。


低い声で呻きながら、バイクに這って近付いていく。
「おい… お前何やってんだ?」声を掛けたが聞こえないようだ。
「何やってんだって聞いてんだよテメエ!」呻いている友人に近寄った一人が、
這い動く彼の正面にまわって半ば叫ぶようにして呼び掛けた。
しかしその直後、声を掛けた方が固まった。
「ぅぅああぁ…あぁあ…」呻きながら硬直した友人を避け、なおもバイクに
近づいて行く。
「うああああああああああ!」俺の後ろの奴がこの場にいる事に耐え切られなく
なったのか、悲鳴を上げながらトンネル出口へと一目散に走り出した。他の全員も
その悲鳴と共に、這いつくばる友人の元から逃げ出した。

「あいつさあ、俺の首絞めてきたんだよな…」
トンネルを出てしばらくすると、おかしくなった友人と同じバイクに乗っていた
奴が喋り始めた。運転中に突然後ろから首に手を掛け、喉を押さえたのだという。
「どうしようか?見に行く?」取り合えず言ってみたが、誰も反応しない。
当然だ。結局トンネルに再び入ったのは朝になってからだった。
友人は壊れたバイクと共に消えていた。道路にバイクを引きずったような跡が
向こう側に伸びていた。その後を辿る勇気は無かった。
勿論警察に事情を説明し、捜索届けを出した。彼の両親にも謝罪に行った。
誰も責めない両親のぎこちない優しさが辛かった。

3ヵ月後。警察から連絡があった。彼が見つかったのだという。
すぐに警察署へ行くと、その場に居合わせた一人と問題の友人の両親が先にいた。
警察の話では、彼が見つかったのは群馬の山の中、あのトンネルからは余りにも
距離がある場所だったという。発見された時には既に絶命し、腐食が始まっていたらしい。
警察の後ろにあるベッドに目がいった。
「顔を見せてもらえませんか?」警察に聞いてみると、先に来ていた友人がそれを止めた。
「やめとけ」友人がぼそっと言った。
「何でだよ」と聞くと、友人は静かに話し始めた。
「あの時さあ、俺あいつの顔見たじゃん。怒鳴って。
あいつさあ… 目がおかしかったんだよ。こう、黒目が両方耳の方行ってて。」
詳しい話は警察に聞いた。彼の両眼は外側に引っくり返っていた。目頭から
目尻の方向に、眼球が引っ張られたように動いていて、そのせいで眼神経が伸びきった状態だったという。
物が見えるはずが無かった。
何故失明した彼が群馬などと遠い場所にいたのか、どうやって目が損傷したのか、
バイクは何処に行ったのかは解っていないらしい。

彼の両親が嗚咽を漏らしながら泣いていた――


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